提携専門家相談事例

専門家の力を借りず、家族だけで本人のサポートがしたい! ~後見制度支援信託制度~

後見制度支援信託とは?

みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回に引き続き、法定後見制度について、私の実体験をもとに事例をご紹介したいと思います。

さて、後見開始の申立ての際、後見人候補者を立てても必ずしも希望が通るとは限らないことは以前の記事でも書きました。また、希望が通り親族が後見人になれたとしても、監督機能強化のため、専門家が監督人として付くこともあります。ご本人のサポートを、親族後見人を中心に家族だけしたい、というお考えの方は多くいらっしゃいますが、裁判所の判断で、弁護士や司法書士といった専門家が関わることになる可能性があるのです。今回はそういった声に応えるべく考え出された「後見制度支援信託」という制度をご紹介します。

この制度は、ご本人の財産のうち、臨時の出費(冠婚葬祭費や急な入院費等)に備えた金額だけをこれまでの金融機関に口座に残し、残りすべて信託銀行等に預け、そこからは裁判所の許可がない限りは、成年後見人でも簡単に引き出せないようにするというものです。

これまでの後見制度の経緯

そもそも、親族が後見人になろうとしても、専門職後見人を選任したり、監督人を付けたりするのは、残念ながら後見人の不正が多いからです。この不正を防ぐには、より親族後見人への監督を強化すれば良いということで、当初は監督人を付けるケースが多かったです。
しかし、専門職が監督人になると、当然報酬が発生します。選任からご本人がお亡くなりになるまでの期間、ずっと監督人報酬を払い続けるのは負担が大き過ぎるという利用者側の声を反映し作られたのが、この後見制度支援信託の制度です。

実際に担当したケース

実際に私が関与した、裁判所から後見制度支援信託の利用を勧められたケースでこの制度利用の流れをご紹介します。(分かりやすいように実際と若干内容を変更しています。)

<<状況>>

◎ご本人(被後見人)女性(80代)

高齢に加え、認知症も進んでおり後見制度利用が適切

◎申立人(後見人候補者)長男(60代)

できる限り自分だけで母親のサポートをしたい

◎経緯
後見申立の理由は、ご本人が老人ホームへの入所するにあたり、その入所契約とご本人の口座からの費用支払いについて、ホームと金融機関から後見人選任が必要との説明を受けたため。
長男は、これまで同居しており、在宅での介護の限界を感じていたため、ホームへの入所を検討。しかし、今後も出来る限りのサポートはしていくつもり。家族の協力は得られるので、「専門家の力を借りず、家族だけで本人のサポートがしたい!」。事務仕事は得意であるため、定期報告も問題なく行えるので、専門家が付く必要はないと思っている。

◎申立にあたって
後見開始の申立てにあたり、家庭裁判所にて受理面接が行われた。ご本人の状況から後見人を立てる必要性は認められたが、ご本人の保有している預貯金が多額(2,000万円超)という理由から、①後見制度支援信託の利用、または②成年後見監督人を立てることを求められた。

後見開始の申立の面接とは?
後見制度を開始するに当たっては開始の是非、後見人候補者の適格性を判断するための面接が家庭裁判所で行われます。面接では大きく分けて、①後見制度についての説明、②申立人、候補者へのヒアリングが行われます。ヒアリングでは、①なぜ申立てをしたのか、②本人(被後見人)の生活状況・経済状況について、③候補者自身の経歴や現在の生活状況、経済状況等について、といったことが聞かれます。

申立人は、①後見制度支援信託の利用し、専門家を付けないで済む方法を選択しました。その後、次のような流れで手続きが進みました。

①審判
申立人が親族後見人として選任されたことに加え、信託手続きのための専門職後見人として、私も選任された。

②専門職後見人による検討
本人の生活状況や財産状況等を総合的に考慮し、これまでの口座に200万円を残し、残りを信託銀行に金銭信託として預けることに。

③報告書の提出
②の内容で制度が利用すべきとした報告書を家庭裁判所に提出。

④信託契約締結
専門職後見人である私が、家庭裁判所から発行された指示書を信託銀行に提出して信託契約を締結。

⑤引継ぎ
契約した金額をこれまでの口座から信託口座に振込み。専門職後見人が関与する必要性がなくなったので、私は辞任し、管理していた財産を親族後見人に引き継ぎ。

これで一連の流れが済み、私もお役御免となり、申立人のみの後見人1名体制がスタートしました。手続き完了までは、時間と費用がかかってしましますが、「家族だけで本人のサポートがしたい!」とおっしゃっていた、申立人の希望が叶う形になりました。

まとめ

成年後見制度は、利用者の立場になって利用しやすいように運用を変えてきています。今回ご紹介した、後見制度支援信託はまさにそれまでの課題をクリアするために作られたものです。
今回のように、他人(専門家)の力を借りることなく、ご家族だけでご本人をサポートしたいと希望される方は多いです。そういった方は、裁判所から提案があれば、ぜひ利用して欲しいと思います。
ただ、ご紹介したケースのように、当初は専門職後見人が付き信託手続きをすることになっており、短い期間で20万円程度の報酬が発生しますし、ご本人の収支の状況によっては、まとまった金額を預けてしまうことが難しいという場合もあります。
私が担当させていただいたなかには、信託の利用を提案されても、利用せず、監督人を付けることにしたケースも多くあります。制度の利用にあたっては、親族と専門職後見人とで、じっくり検討されることが必要だと思います。

ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。

執筆者:司法書士 高橋 伸光

司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。

高橋司法書士にオンライン相談を依頼する