提携専門家相談事例

コーヒー豆を販売するのに「届出」が必要なの?

先日、焙煎したコーヒー豆をネット販売している知人から、コーヒーの製造業も「届出」が必要になったらしいので相談に乗って欲しいとの依頼がありました。昨今、リモートワークやステイホームが定着する中で、趣味が高じて副業でコーヒー豆を販売されている方も増えてきているようです。関係のある方も意外といらっしゃるのではないでしょうか?今回は、コーヒーの製造業に関する「届出」について見ていきたいと思います。

コーヒー製造業も「届出」が必要に

私の知人は2018年に、個人でコーヒー豆を焙煎しネット販売を始めました。その際には、コーヒーの製造業を始めるにあたって許可・届出などは必要ありませんでした(実店舗でイートイン又はテイクアウト用のドリンクを提供する場合は、以前から飲食店営業又は喫茶店営業などの許可が必要です。)。

2018年6月に改正された食品衛生法(食品の安全性を確保するための法律)が2021年6月から施行されました。これにより、ネットで焙煎したコーヒー豆を販売する、又は実店舗でコーヒー豆のみを販売するような場合でも保健所への「届出」が必要となりました。

この法律の改正により、2021年6月以前にコーヒーの製造業を始められた方も、改めてコーヒーの製造業を行うための「届出」が必要です。ただ、2021年6月以前に事業を開始していた場合は、猶予期間が設けられていて、2021年11月30日までに届出を出せば問題ありません(2021年6月以降は、営業を開始する場合、届出がなされていないと営業できません。)。

2021年6月からコーヒー豆の販売をするには、保健所の「届出」が必要

●既存のコーヒー製造業事業者の方は、2021年11月30日までに届出を。

しかしながら、届出制になったことで、一つ大事な要件が加わりました。

「衛生管理の基準を満たす」ことが必要に

届出制になったことで、「衛生管理の基準を満たす」ことが大事な要件として加わりました。具体的には下記の2つのポイントを満たす必要があります。

1)食品衛生責任者を設置すること
2)HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理を行うこと

それでは2つのポイントを確認していきましょう。

1)食品衛生責任者の設置

食品衛生責任者とは、施設(店舗)において食品衛生上の管理を行う人です。下記の①または②のいずれかに該当する方がなることができます。

① 食品衛生責任者養成講習会を受講する。⇒食品衛生責任者養成講習会修了者
東京都内の場合、食品衛生責任者養成講習会は、一般社団法人東京都食品衛生協会が
行っています。

講習会の日程及び受講に関する内容は、一般社団法人東京都食品衛生協会ホームページをご参照ください。

② 以下の資格者は、講習会を受けなくても食品衛生責任者になることができます。
・栄養士
・調理師
・製菓衛生師
・と畜場法に規定する衛生管理責任者
・と畜場法に規定する作業衛生責任者
・食鳥処理衛生管理者
・船舶料理士
・食品衛生管理者、もしくは食品衛生監視員となることができる資格を有する者
(詳細は、営業店を管轄する保健所にお問い合わせください。)

2)HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理

HACCP(ハサップ)とは国際的な衛生管理の手法であり、”Hazard(危害)” ”Analysis(分析)” “Critical(重要)” “Control(管理)” “Point(点)”の5つの単語の頭文字に由来しています。

具体的には、原材料の受⼊れから最終製品までの各⼯程ごとに、微⽣物による汚染、⾦属の混⼊などの危害要因 を分析(HA)した上で、危害の防⽌につながる特に重要な⼯程(CCP)を継続的に監視・記録する「⼯程管理システム」の方式のことです。

この「HACCPに沿った衛生管理」が、改正食品衛生法の施行に伴って2021年6月から義務化されました。衛生管理方法は、食品事業者の規模や食品の特性に応じて、「HACCPに基づく衛生管理」または「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」のいずれかの方法により実施することが求められています。コーヒー製造業事業者は、下記の要件から「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の実施が必要となる場合が多いと思われます。

○ 「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」の対象となる事業者は、その要件を政令及び省令で定めており、具体的には、

① 食品等の取扱いに従事する者の数が 50 人未満の小規模な製造・加工等の事業場

② 製造・加工した食品の全部又は大部分を併設された店舗において小売販売する営業者(※1)、

③ 飲食店等の食品の調理を行う営業者(※2)、

④ 容器包装に入れられた食品又は包まれた食品のみを貯蔵、運搬、又は 販売する営業者

⑤ 食品を分割して容器包装に入れ、又は包んで小売販売する営業者(※ 3)

などが該当します。

※1:菓子の製造販売、豆腐の製造販売、食肉の販売、魚介類の販売等
※2:飲食店営業のほか、喫茶店営業、給食施設、そうざい製造業、パン製造業
    (消費期 限が概ね 5 日程度のもの)、調理機能を有する自動販売機が含まれる
※3:青果店、コーヒーの量り売り等

~ 厚生労働省「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」より抜粋 ~

では、「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」を実施するにあたり、具体的に何をすればよいのでしょうか?

コーヒー製造業における「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」

小規模事業者などの場合は、各業界団体が作成した「HACCPの考えを取り入れた衛生管理の手引書」を利用し、一般衛生管理と重要管理点を盛り込んだ衛生管理計画を作成、実施、記録・確認を行うことが求められます。

① 手引書の解説を読み、自分の業種・業態では、何が危害要因となるかを理解する。
② 手引書のひな形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備する。
③ その内容を従業員に周知する。
④ 手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録する。
⑤ 手引書で推奨された期間、記録を保存する。
⑥ 記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書の内容を見直す。

コーヒー製造業に関しては、一般社団法人全日本コーヒー協会・全日本コーヒー商工組合連合会が下記の手引書を策定し、厚生労働省により認可されています。

「コーヒー製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000609567.pdf

この手引書の中で、コーヒー製造業事業者における衛生管理について、具体的な取り組み方が記されていますので、この手引書に沿うように衛生管理を行えば問題はないでしょう。

営業届出の手続について

届出の手続は、下記の書類を最寄りの保健所に届け出るか、または厚生労働省のシステムでオンライン申請をすることもできます。

【提出書類】
1 営業届出書    1通(控えが必要な場合は2通)
2 食品衛生責任者の資格を証明するもの(食品衛生責任者手帳等)

(法人の場合)
営業届出書に記載された法人番号により、その法人の存立を確認します。
そのため、営業届出書に法人番号を記載しない場合は登記事項証明書を
添付してください。

【届出手続の留意点】
●届出にあたって手数料はかかりません。
●許可と異なり、施設や設備の要件はありません。
●手続後に届出済証などの発行はありません。届出した控えが必要な方は、営業届出書に収受印を押したものが渡されますので、営業届出書を2通(提出用、控え)を用意して窓口に提出してください。
●許可営業を行う営業者が届出営業も行う場合は、営業許可の申請に加え、営業の届出も行う必要があります。
●同じ施設で複数の届出が必要な行為を行う場合は、代表的な業種について届出が必要です。

まとめ

今回は、コーヒーの製造業に関する「届出」について確認をしました。

2021年6月以前に事業を開始している場合は、2021年11月30日までに届出の必要があります。届出自体はそれほど難しい話ではありませんが、食品衛生責任者の設置が必要になるので注意が必要です。

また、提出書類には含まれませんが、「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」が求められますので、業界団体が策定した手引書を参考に、事業所として対応できるよう体制を整備し、衛生管理に取り組む必要があります。

 

執筆者:行政書士 曽山 満

行政書士事務所を平成26年1月に川崎市にて開業。許認可業務(古物商、飲食業、宅建業など)、国際業務(ビザ申請、帰化など)が主力業務。相談のしやすさときめ細やかなサービスには定評があり、多方面から相談・依頼を受けている。

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