提携専門家相談事例

自宅を自由に売ってはいけない? ~後見制度の裁判所の許可が必要な場合とは~

家庭裁判所の役割

みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回に引き続き、法定後見制度について、私の実体験をもとに事例をご紹介したいと思います。

さて、今回は家庭裁判所の役割について。家庭裁判所は、被後見人の利益がきちんと守られるように、定期的にまたは随時、財産の管理状況などについて報告を求めたり調査をします。これを「後見監督」といいます。

Q:家庭裁判所による監視・監督方法はどのようになっていますか。
A:家庭裁判所による監視・監督方法は,適時に後見人へ後見事務の報告や財産目録を提出させ,これを点検していくことを通じて行うことを基本としています。
しかし,点検作業の過程で後見事務に問題のあること,又は,問題が含まれている可能性があることを認識した場合には,金融機関に対する調査嘱託や,家庭裁判所調査官による事実関係の調査等を行って,問題の有無・対応などにつき検討したり,財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命じたりするほか,場合によっては家庭裁判所調査官の調査等を経ずに直ちに専門職後見人の追加選任・権限分掌の措置を講じて財産保全と後見事務の調査を行い,後見人を解任することもあります。
さらに,後見人の不正事案については,横領,背任等の刑罰法規に触れるものとして,家庭裁判所として刑事告発を行うことがあります。

(出典:裁判所 後見ポータルサイト
https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html#qa_kaji87

居住用不動産の売却許可とは

後見人が財産管理を行っていくなかで、不動産を売却する必要が出てくることがあるかと思います。また、そもそも成年後見制度を利用したきっかけが、不動産を売却したいが、所有者本人が認知症のためその手続きが進められないから、ということも少なくありません。

被後見人が不動産を売却する場合、それが本人の居住用不動産のときには、家庭裁判所に、居住用不動産の売却許可を申し立てて、売却許可を出してもらう必要があります。後見人が裁判所に定期的にする報告では足りず、必要なのは「許可です。こうした許可を出すのも家庭裁判所の役割のひとつです。

許可が必要な「居住用不動産」とは?
ここでいう居住用不動産とは、実は現在居住している不動産だけではありません。過去に居住していた不動産や将来居住する可能性がある不動産も含むとても広い概念になります。居住用不動産に該当するか迷うような場合は、居住用不動産に該当する可能性が高いと考え、許可をもらった方が安心です。一方、非居住用不動産の場合は、許可は不要ですが、自由に売却や処分をしてもよいわけではなく、財産管理の一環としてイレギュラーな対応をするわけですから、家庭裁判所に事前に相談する必要があります。

売却が認められるケース

さて、この居住用不動産の売却許可ですが、申し立てても必ず認められるとは限りません。売却が認められるかは、売却の必要性売却価格の相当性を判断して、家庭裁判所が決めることになります。

売却の必要性とは、例えば、

①売却代金を施設の入所費用に充てたい
②施設入所しており今後自宅に戻ることはない
③自宅に誰も住んでおらず、空き家になっている。管理費用や固定資産税や火災保険の負担も生じてしまう

等が挙げられます。

また、価格の相当性は、複数の不動産業者に査定してもらった金額や固定資産税評価額等を基に判断されます。

売却の必要性がない、または価格が相当でないとされた場合には、売却許可が出ないことになり、この許可がない不動産売買契約は無効となってしまいます。

事例

それでは、実際に私が後見人をさせていただいる方のケースをご紹介します。(分かりやすいように実際と若干内容を変更しています。)

<状況>

ご本人(被後見人)女性(80代)
サービス付き高齢者住宅に入居、自宅は長年空き家。ひとり娘がいるが、遠方に住んでいるため、サポートが難しい。本人は認知症ではあるが、自宅に戻って介護サービスを受け生活していくことも不可能ではない。不動産はこの自宅だけだが、金融資産は潤沢に保有している。

経緯
この方の後見人をさせていただくなかで、一番困ったのは、近隣住民からの苦情でした。空き家は戸建てで庭があり、手入れができていない、草木が越境して自分の敷地に入ってきているといったことから、蜂が巣をつくっている、猫が軒下に居ついているといったことまで、周辺の多くの方からの声が寄せられました。

娘さんに相談したところ、前々から売却した方が良いのではと考えていたので、話を進めてください、とのこと。しかし、裁判所の許可の件はご存知なかったようで、後見人や相続人である自分の判断で、自由に売ってはいけないの?という疑問を持たれました。

さて、売却に向け、その必要性について、前述の例で検討すると、

①売却代金を施設の入所費用に充てたい⇒×
②施設入所しており今後自宅に戻ることはない⇒△
③自宅に誰も住んでおらず、空き家になっている。管理費用や固定資産税や火災保険の負担も生じてしまう⇒○

ということになります。①、②よりも理由としては弱いですが、③の空き家のままにしておくデメリットを、上記の苦情の件も含めて詳細に説明する内容で申立てることにしました。

また、金額の相当性については、不動産業者3社に査定してもらいましたが、どこもいわゆる相場の価格で大差なかったので、一番高い金額を提示してもらえた業者に仲介を依頼し、無事買主も見つかり契約することができました。

早速書類をまとめ、許可申立てをしたところ、およそ3週間で許可が出ました。その後の売買の一連の手続き、物件の引き渡しも問題なく終わり、娘さんも安心されていました。

まとめ

家庭裁判所が後見人を監督する以上、その判断は後見業務に大きな影響を及ぼします。今回の居住用不動産の売却でいえば、不動産の売却いうとても重大な行為についての可否を裁判所が判断することになるのです。

売却許可の申立にあたっては、売買契約書案を添付する必要があります。つまり、買主と売買の話をかなり進めた段階で申立てすることになります。許可が出なかった、では大問題になってしまうことは容易に想像がつくかと思います。

許可が出たあとには、金額や買主を変えることはできません。また、最終的に売却が認められる場合でも、裁判所で検討に時間がかかり、許可が出るまでに時間がかかることがよくあります。

被後見人の自宅を売却する場合は、そのあたりの実務についてよく知っている必要があります。買主にも事情をご理解いただいて、契約条項を通常とは変えたり、日程に余裕をもって進めたりといった工夫をしないと、売主としての責任を負うことになりかねません。

司法書士は、後見の専門家であると同時に、不動産登記の専門家でもあり、日常的に不動産取引に関与していることから、こういったケースのご相談をいただくには適任と自負しております。

ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。

執筆者:司法書士 高橋 伸光

司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。

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