相続登記の義務化について
みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回まで遺言や任意後見といった、生前に有効な対策についてご紹介してきました。今回は対策というわけではありませんが、やり残したままになっていないか、注意喚起の意味を込めて、相続登記について事例を交えてご紹介します。
みなさん、この度相続登記を義務化する法改正がされたことはご存知でしょうか?
この改正法は遡って適用されますので、今後相続される方だけでなく、過去に不動産を相続していながら名義変更をしていない方についても、登記をしないとペナルティの対象になりますので注意が必要です。
司法書士は不動産登記の専門家であることから、最近はこの相続登記義務化に関するお問い合わせが多くなってきています。以下、詳しく見ていきましょう。
相続登記義務化のポイント
所有者不明土地の解消を目的として不動産登記法が改正され、以前は義務とはされていなかった相続登記が義務となり、期限内にしなければいけないことになりました。
3年以内に相続登記をしなければならない
新しい不動産登記法においては、不動産の相続人に対し「相続が開始して所有権を取得したことを知ってから3年以内に相続登記をしなければならない」と定められています。
ただし、この相続登記を義務化する改正法はまだ施行されていないので、現時点においてはまだ義務とはなっていません。
施行日は「法律の交付日から3年以内」に指定される予定です。令和3年4月28日に交付されたので、そこから3年以内に施行されることになります。
すでに発生した相続については施行後3年以内に
それでは、いつの時点で発生した相続から義務になるのでしょうか?
今回の改正法は、相続の発生が法律の施行前であるか後であるかを問わず、いずれの相続についても適用されます。施行前の相続に適用できないと、相続登記が行われずに放置されている現状の問題を解決できないためです。
もし、すでに相続が発生しているけれども不動産の相続登記をしていない場合は、改正法の施行日後3年以内に相続登記すれば良いことになります。
相続登記しない場合のペナルティは過料10万円
義務化となる以上、手続きをしていない場合にはペナルティが待っています。改正法の施行日以降、期限内に相続登記を完了しない場合、過料10万円が課されるのでくれぐれも注意してください。
相続登記の事例
前述のとおり、現時点では相続登記は義務ではありません。ただ、みなさんの関心が高まっていることから、今までしないままになっていた相続登記をしたい、というご依頼が増えています。ここではこれを機に相続登記をされた方のケースをご紹介します。(実際とは内容を少し変更しています。)
<概要>
Cさんからの相続登記のご依頼。母Aさんの実家の土地・建物の名義が祖父になっている。祖父、祖母が亡くなった際に、相続登記の話題が出たが、義務ではないことを知り、また、他に財産と呼べるものもなかったのでそのままにしてしまっていた。今後登記が義務になることを聞き、母が亡くなったこのタイミングで手続きをしようと決めた。
<対応>
祖父母の代と母の代の二世代の相続手続きになります。祖父母の相続人である叔父のBさん、祖父母の相続人であるAさんのさらに相続人である依頼者のCさん、弟のDさんの3名で遺産分割協議をし、誰が祖父名義の不動産を相続するか決めることになります。
幸い、Bさんは当初から自身が相続するつもりはなかったようで、Cさん、Dさんで2分の1ずつ相続する内容で話がまとまり、比較的スムーズに手続きが進みました。
今回のケースでは問題ありませんでしたが、このように次の世代に相続登記を残してしまうと、相続人が増え、遺産分割協議がまとまらない可能性が高くなってしまいます。また、相続人調査の段階で膨大な量の戸籍を収集しなければならないケースもあり、子の代で手続きするよりも実費や司法書士報酬といった費用の負担が大きくなってしまうことがほとんどです。やはり「早めに」が一番です。
まとめ
さて、これまで相続登記の義務化について見てきました。今後3年以内に義務化がスタートします。ペナルティを課せられないよう、これを機に手続きしなければ、と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。今すぐ登記しなくてもペナルティはありませんが、できるだけ早めに登記手続きをすべきです。
また、今回は説明を割愛しましたが、改正不動産登記法では、不動産を相続した人が法務局に対し「私が不動産の相続人です」と申し出て登記してもらう「相続人申告登記」の制度が盛り込まれ、また、不要な土地を国に譲渡できる制度を定める法律も制定されました。
特に、後者の制度を利用し、不要な土地を国に引き取ってもらおうとお考えの方も少なくないようですが、この制度は条件が厳しく、すべての土地を引き取ってもらえるわけではありませんので注意が必要です。
改正の内容についてのお問い合わせや、具体的に相続登記をしたいというご相談は、司法書士にしましょう。
ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。
執筆者:司法書士 高橋 伸光
司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。