任意後見4点セットについて
みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回、特におひとりさまが終活について考える際、検討しておくべき対策についてご紹介しました。
・継続的見守り及び財産管理委任契約(任意代理契約)
・任意後見契約
・死後事務委任契約
・遺言公正証書
の、「任意後見4点セット」です。今回は、これらの制度を利用する場合の注意点を、事例を交えながらご紹介したいと思います。
事例
今後のことを考えて「任意後見4点セット」を利用することにされた方のケースです。(実際とは内容を少し変更しています。)
<概要>
ご依頼者(80代男性):子はなく、妻に先立たれ、ホームヘルパー等の福祉サービスを利用しながら賃貸アパートでひとりで生活をしている。法定相続人として、兄弟2名がいるが、いずれも遠方におり、自身の今後のことを任せるのは難しく、元気な今のうちにできる対策を取っておきたいと考え、司法書士に相談することにした。
<依頼者のご要望>
・兄弟やその子に今後のことを任せるのは難しいので信頼できる専門家(司法書士)にお願いしたい。
・預貯金を中心とした財産は、兄の子(甥)に引き継ぎたい。
・もしものことがあった場合の葬儀、供養については依頼先をもう決めている。
<対応>4点セットの利用
依頼者は、相談にあたり、任意後見契約と遺言についてはある程度調べており、自身に必要な制度と考え、利用することをほぼ決めていました。確かに、任意後見契約で今後のことをお願いする人を決めておけますし、財産を甥に引き継ぎたいという点は遺言で実現できるでしょう。しかし、任意後見契約の前後の「空白」の時期をカバーし、確実にすべてのご意向を実現するには、継続的見守り及び財産管理委任契約と死後事務委任契約も必要です。そのことを説明し、これらも含め、任意後見4点セットを利用することになり、無事公証役場での手続きも済みました。
注意したこと
今回のケースで、話を進めるにあたり注意した点は以下のとおりです。どの事例にも当てはまることだと思いますので、ぜひ覚えておいてください。
①時間をかけて検討する
お分かりいただけるかと思いますが、今後の自分のことを任せる人を決めるという非常に重要な決断をすることになります。私は、お受けするにあたっては必ず聞くようにしています。
「私で大丈夫ですか?」
長期間に渡り関係を継続していくためにも、お互いのことをよく理解してから手続きを進めることが重要となってきます。
また、4点セットは、ご本人の状況に応じて適用時期が異なる複数の制度の組合せで、それぞれの内容や違いをご理解いただくには時間がかかります。今回のご依頼者のように、任意後見契約や遺言については、ご存知の方も多いですが、継続的見守り及び財産管理委任契約や死後事務委任契約については、初めて聞いたという方も少なくありません。今回のケースでは当初作成した契約書案に、ご理解ご納得いくまで何度も修正を加え、半年ほどかけて内容を確定しました。
②報酬、手数料を確認する
専門家へ依頼すると当然費用が発生することになります。種類で分けると、
・契約書作成、遺言書作成サポート報酬(最初の一度のみ)
・月額報酬(任意後見契約や継続的見守り及び財産管理委任契約の内容に基づく)
※通常の報酬に加え、特別な対応を行った場合の付加報酬についても定めることが多いです。
・事務完了報酬(事後事務委任契約や遺言の内容に基づく)
・公正証書作成手数料
これらを合わせると、契約時に数十万円、その後、毎月数万円の費用負担が発生することになります。契約にあたっては、細かく報酬規程を決めておくと良いでしょう。
③第三者のチェック体制
任意後見の効力が発生するのは「家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されたとき」ということは前回ご紹介しました。つまり、任意後見人には、業務を監督するために監督人が就き、定期的にチェックしてくれる仕組みが最初からあることになります。
一方、継続的見守り及び財産管理委任契約は、家庭裁判所が関与しない契約なので、基本的にはご本人以外にチェックを行う者はいません。そのため、ご本人が元気なうちは、受任者から定期的に報告を受け、自身で業務をチェックする必要があります。契約上、ご本人以外の方が定期的に業務をチェックする条項を盛り込むのも一つの手です。
継続的見守り及び財産管理委任契約は、任意後見契約と違い、当事者で自由に内容を決めることができ、利用しやすいという反面、管理監督体制が整っていないことがデメリットとなります。大きな損害を生んでしまうことのないよう、内容を慎重に検討する必要があります。
◎リーガルサポートにおける契約立会
私も所属する「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」では、見守り及び任意代理契約にあたっては、契約書の事前の内容確認、ご本人の意思確認を行い、契約締結後も監督機関として受任者(=ご依頼いただいた司法書士)を指導することになっています。
生前の対策は、ほとんどの方が初めてご相談されることかと思いますし、そこで今後のことをお願いすることにした司法書士の先生に「契約内容が本当に問題ないか?金額は他と比べ高くないか?」といったことを聞くのは失礼になると遠慮される方がいらっしゃるかと思います。また、一度スタートすると、不満に思うことがあってもなかなか面と向かって言うことができないかもしれません。
(出典:公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート ウェブサイト
https://www.legal-support.or.jp/support/arbitrarily)
まとめ
前回、今回と任意後見4点セットについて見てきました。任意後見もまた、遺言のようにせっかく作ったのに、実際には利用されなかったということにならないためにも、ご本人の状況に合わせて必要なオプションを付けることを検討する必要があります。
ご紹介してきたように、4点セットすべてを利用しようとすると、内容の確定までそれなりの時間がかかります。早く作るために内容の検討をおろそかにしてしまっては本末転倒です。
特に、おひとりさまの場合は、任意後見4点セットは意思の実現のために有効なものとなることが多いですので、早い段階から検討されるのが良いかと思います。歳を重ねるにつれて判断能力も衰え、面倒になってきてしまうことの方が多いというのは何も遺言だけではありません。生前対策全般については、思い立った今、ぜひ検討して欲しいと思います。
ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。
執筆者:司法書士 高橋 伸光
司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。