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令和3年から年金額が下がる?年金制度改正法で変わる定年後の働き方

こんにちは、ファイナンシャルプランナー(FP)の大熊雅貴です。

本日4月1日といえば…そう、エイプリルフール!ですが、2020年3月に改正法が可決・成立した「高年齢者雇用安定法」が施行される日でもあります。(ウソじゃないです)
ざっくり言いますと、2021年4月から事業者は「70歳までの就業機会確保が努力義務」となります。(参考:厚生労働省パンフレット:「高年齢者雇用安定法改正の概要」
つまり、2012年の改正では【60歳定年➔65歳まで雇用延長】となっていたのが、これを【65歳定年➔70歳まで雇用延長】へと引き上げるのが今回の大きな特徴です。(※あくまでも“努力目標”ですので、定年の70歳への引上げを現時点で義務付けるものではありません)
将来もらえる年金をふまえると、今後は70歳近くまで働くことを検討していかなければいけないかもしれません。

令和3年度からもらえる年金額が下がる⁈

厚生労働省は、今年1月に令和3年度の年金額を引き下げると発表しました。今年度から0.1%の引下げとなり、4年振りのマイナス改定です。金額としては、国民年金が66円下がって6万5,075円、厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯では228円減額され、22万496円になります。

年金額は、毎年の賃金や物価の変動率に応じて改定されています。昔は、年金は物価上昇に合わせてスライドする(アップする)ので安心と学校で習った気がしますが…現在は、少子高齢化によって年金財政を長期的に維持し、将来世代の年金給付水準を確保することを目的に「マクロ経済スライド」というシステムが2004年から導入されました。これは、賃金と物価の伸びより、年金額を低く抑えるという仕組みです。ただ、物価と賃金が上昇局面ではないデフレ下では実施されませんので、21年度はマイナス改定の公算で発動が見送られます。

でも、支払う国民年金保険料はアップ

一方、支払う国民年金保険料は、月額16,610円で前年対比+70円のアップとなります。国民年金保険料は平成29年に引き上げ上限の16,900円に達したのですが、次世代育成支援のために100円上がり17,000円となりました。これが法律に規定された保険料額ですが、実際の保険料は平成16年度の価格水準を維持するため、名目賃金の変動に応じて毎年改定されているため、来年度は16,610円になります。(参考:日本年金機構「国民年金保険料の変遷」

早めの“じぶん年金”設計

自営業者の場合、国民年金のみ加入だと1人なら月額約6.5万円、夫婦で約13万円が支給されます。高齢者世帯の家計を総務省統計局「家計調査年報2019」から見ると、収入の9割は社会保障給付(公的年金)から得ている事がわかります。ただし支出は、単身世帯は約15万円(税金・社会保険料を含む)、夫婦世帯が約27万円なので、国民年金だけでは到底たりません。
国民年金や厚生年金だけでは、いずれにしても老後の生活は足りないことが分かります。さらに、今後も少しずつ年金額は減少してくるかもしれません。年金額が減ることは、年金生活者にとっては家計が苦しくなるので大変です。
そのため、将来の年金額に出たとこ勝負で生活費を合わせていくのか、またある程度の貯蓄を準備してゆとりある老後の生活設計を目指すのか、退職直前からではなく、ある程度先を見据えて事前に準備することが重要になってきます

『2022年4月以降施行』年金制度改正法で変わる定年後の働き方

そんな老後の年金制度を改善するため、2022年4月から年金制度改正法が施行されます。今回の改正では、女性や高齢者の就業が進んでいることに合わせて、パートなどの短時間労働者への年金適用拡大や繰り下げ受給の上限引き上げ、確定拠出年金についての要件緩和などが含まれます。特にシニアやパートタイマーの働き方に影響がでるため、今回の記事では年金制度改正法の4つの変更点の詳細とそれぞれの施行時期、シニア層への影響についてざっくりと解説していきます。

今回の年金制度改正の4つの変更と施行時期

厚生年金の適用範囲の拡大

今回の改正では、まず厚生年金の適用範囲が拡大しました。具体的には常勤者の所定労働時間もしくは所定労働日数の4分の3未満の短時間労働者であっても、一定の要件を満たせば厚生年金に加入できるようになります。
以下は現行制度における、パートタイマーを厚生年金(社会保険)に加入させる要件です。

  • 1週間の労働時間が20時間以上であること
  • 雇用期間が1年以上見込まれること
  • 賃金が1ヶ月8.8万円以上であること
  • 学生ではないこと

現行の制度において、上記の要件を満たしたパートタイマーを社会保険に加入させる義務があるのは、被保険者となっている従業員が501人以上の事業所のみでした。しかし企業規模要件について段階的に引き下げ、2022年10月以降は101人以上の事業所、2024年10月以降は51人以上の事業所までが適用になります。
また、今回の改正では、上記のなかで「雇用期間が1年以上見込まれること」という要件は撤廃され、フルタイムと同様に2ヶ月以上となります。なお、5人以上の個人事業所で適用とされている業種(製造業・鉱業・土木建築業・電気ガス事業・清掃業・運送業など)に、法律又は会計に係る業務を行う事業を追加されます。

在職中の年金受給についての見直し

現行の制度では、年金を繰り上げ支給を受けながら働いている60~64歳の方は、給与などの賃金と年金受給額の合計が月額28万円を超えると、超過した分の年金の支給が停止されてしまいます。改正後はこの部分が見直され、年金の支給停止の基準額が月額28万円から47万円へ緩和されることになりました。65歳以上で働きながら年金を受給している方は、もともとの基準額がすでに47万円となっており、変更はありません。
また、現行の制度では65歳以上で在職中の方の場合、退職時に年金額が改定されるまでは年金受給額が変わりませんでした。しかし今回の改正で、65歳を過ぎてからも働いている場合、毎年10月に保険料の納付額をもとに年金受給額を見直すことで、年金額の改定が行われることになりました。この在職定時の改定制度があることで、長く働くメリットができます。
なお、これらの制度改正は、2022年4月に施行されます。(参考:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)」)

受給開始時期の選択肢の拡大

近年では平均寿命と健康寿命が延びたことで高齢者の就労期間も長くなっていることから、改正によって年金の受け取り方にも様々な選択肢が増えてきました。
現在の公的年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、本人の希望により60歳~70歳のあいだで受給開始時期を自由に決めることができます。65歳より手前に受給を繰上げた場合、一年繰り上げする毎に0.5%減額された年金(最大30%減)が支給され、反対に支給開始年齢を66~70歳に繰下げた場合は一年繰り下げにつき0.7%増額された年金(最大42%増)を、生涯にわたり受給することになります。
しかし、今回の改正では、繰り上げ受給の減額率0.5%➔0.4%に引き下げられ、60歳で年金を受給開始した場合は30%➔24%の減額になります。繰下げ受給の場合の増額率は変わらず0.7%のままですが、受給開始年齢の上限を70歳から75歳に引き上げ、75歳まで受給を繰り下げると年金額は最大でプラス84%になります。この改正は、来年2022年4月に施行され、2022年4月1日以降に70歳になる方が対象となります。

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入要件の緩和

確定拠出年金(DC)とは、基礎年金や厚生年金のほかに掛金を積み立てて運用し、その積立額と運用収益をもとに支給される年金のことです。企業型DCと個人型DC(iDeCo)があり、企業型DCとは企業が掛金を支払うもの、個人型DC(iDeCo)とは個人が掛金を支払うものです。毎月の掛金を所得控除することができる、運用中の利益が非課税になる、年金受給時の税負担も軽くなるなどの、税制上の優遇措置があります
これまで、65歳未満までだった企業型DCの加入年齢を70歳未満に個人型DC (iDeCo)は60歳未満だったものを65歳未満に引き上げます。また、企業型DCに加入している方がiDeCoに加入を希望する場合、勤め先企業の労使の合意が必要でしたが、2022年10月以降はこの要件が緩和され、原則勤め先の合意無しに加入できるようになります。また、受給開始時期の選択範囲についても、これまでは60~70歳の間とされていましたが、2022年4月以降からは60~75歳に拡大されます。

今回の年金制度改正が与える影響

今回の年金制度改正は、高齢者や女性の労働者が増加していることを受けて、多様化している働き方に対応できる年金制度を目指したものです。例えば、短時間労働者を厚生年金に加入できる適用範囲を広げることにより、より多くのパートタイマーの方が社会保険制度を利用できるようになります。これにより、育児や介護でフルタイム勤務が難しい方やシニア世代の働き方にとってもパートタイマーという選択肢が選び易くなるでしょう。また、受給開始時期の選択期間の拡大や、在職中の年金支給停止の基準額の緩和により、シニア世代が定年後も継続して働きやすくなります
今後、平均寿命や健康寿命が延びることで老後の経済的な不安を抱える人が増え可能性があります。今後は、これまでの「定年」という言葉に縛られず、生きがいとして仕事を続けることで金銭的不安を解消しつつ、趣味などを楽しむ老後を目指すことが必要なのかもしれません。また、企業にとっても、経験豊かなシニア世代を採用したりすることによって、働く意欲のある人材を得ることができたり、生産性の向上が期待できます。

終わりに

今回の年金制度改正は、主に定年後やセカンドキャリアにおいて働き方の選択肢を増やす内容となっています。年金を受給できる年齢になってもまだまだ働ける、というシニア世代はたくさん出てくるでしょう。また、資産形成をするうえでメリットがある様々な制度も併せて利用することも忘れてはいけません。まずはしっかりとご自身の年金と向き合い、そのうえで「老後資金とキャリアプランニング」を“早く”立てましょう

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(執筆者・ファイナンシャルプランナー 大熊 雅貴

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