所得税基本通達の改正について(案)
経営者、オーナー企業の皆様こんにちは。
FPの河野です。前回、掲載しました法人保険『名義変更プラン』について掲載後数日後にパブリックコメント(以下パブコメ)が掲載されましたので改めておさらいをしたいと思います。
中々パブコメをご覧にならない方もいらっしゃると思いますので、概略を記載したいと思います。
「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)の概要
1 改正等の背景
所得税法上、使用者が、役員又は使用人に対して、生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約(以下「保険契約等」といいます。)に関する権利を支給した場合には、支給時において保険契約等を解約した場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額。以下「支給時解約返戻金の額」といいます。)で評価すると取り扱っています。
他方で、「低解約返戻金型保険」や「復旧することのできる払済保険」など解約返戻金の額が著しく低いと認められる保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されないことから、支給時解約返戻金の額で評価することは適当でないと考えます。
2 改正案の概要
法人税基本通達では、保険契約等に関する権利について、支払保険料の一部を前払保険料として資産に計上する取扱いが定められています。
このような法人税基本通達の取扱いを踏まえ、使用者が、役員又は使用人に対して、解約返戻金の額が著しく低いと認められる次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、次の金額で評価する
こととします。
⑴ 支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利を支給した場合には、支給時資産計上額により評価する。
⑵ 復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利を支給した場合には、支給時資産計上額に法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより使用者が損金に算入した金額を加算した金額により評価する。
(注1)「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうち当該保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金などで処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいいます。
(注2)今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としていますが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討します。
3 適用時期
改正後の所得税基本通達の取扱いは、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用します。
(注)法人税基本通達9-3-5の2の取扱いは、令和元年7月8日以後に締結する保険契約等について適用するとされていることから、同日前に締結した保険契約等は、原則として、見直しの対象にならないものと考えます。
4 新旧対照表
所得税基本通達36-37 の新旧対照表は別紙のとおりです。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000218502
なぜ2019年7月8日以降締結した契約からなのか?
以上が4月28日掲載分のパブコメである。
前回の記事でも触れていましたが、今回一番焦点に挙がっているのが契約の遡及になります。
では、なぜ2019年7月8日以降の契約からなのか。
定期保険・第三分野保険については2019年7月8日より法人契約に関わる税務が大きく改定されました。この内容の基本となる考え方を整理します。
生命保険法人契約の保険料は、平準保険料における前払い部分を本来資産計上する必要がある。しかし、個々の保険契約単位ではその額が不明のため、簡便法として通達による方式をとっています。
2019年7月8日以降契約に関わる改定では、この保険料における資産計上割合をピーク時解約返戻率による基準に改めました。
ここが一番の軸となり今回の名義変更プランもこの時期に遡ることになったものだと考えます。
見直し(案)とその他の注意すべき点
今回の名義変更プランは、あくまで法人契約についてを想定しています。
個人の契約は原則として対象になりません。
しかし、(使用者)から(役員または使用人)への名義変更を想定している為、個人事業主の契約は対象となる。
この点は契約を締結している個人事業主の方は留意しておく必要があります。
パブコメ期限は2021年5月28日まで。通達改正は7月1日となっております。
あくまでまだ、パブコメ掲載の段階なので正式な税制改正ではない事はご留意ください。
今後の法人契約の税務問題
2019年のバレンタインショックも今回の見直し(案)も対象は定期保険・または第三分野の保険である。(第三分野の保険は2019年以前に改正されました)
今回もそうですが、法人保険の基礎となる養老保険や、終身保険は対象外であります。
個人的には今後、この分野にも多少なりとも何らかの事があるのではないかと考えております。
特に養老保険のハーフタックスプランの1/2の損金参入割合や、逆ハーフタックスプランの税務実務の所は今後の税務問題として取り上げられてもおかしくはないと考えております。
もちろん、この事に関しては、個人的な考えでありますのでどうなるかは分かりません。
生命保険会社側が逆ハーフタックスプラン新契約の引き受けを基本的には停止しており、その意味で新たな問題が生ずる可能性は小さいと考えられる一方で、契約後の受取人変更などにより、新契約後に逆ハーフタックスプラン形態とすることは可能と思われ、問題が生ずる可能性がゼロとなっているわけではないことは注意しておく必要があると個人的には思います。
私もこの業界に入ってから、今回のような税制改正(案)は何度も経験していますがいつも決まって謳い文句があると実感しています。『生命保険(法人保険)本来の性質』
この言葉は税制改正の度に聞きます。
本来保障を謳う保険ですが、これが保険本来の性質。私自身も改めて考えていきたいと思っております。
この2回は経営者・オーナー様向けの記事になりましたが、法人でも個人でも1企業・1個人それぞれ全く違います。このオンライン相談のテーマでもある寄り添い続けられるFPであることをこれからも継続していきたいと思います。
執筆者:ファイナンシャルプランナー 河野 靖史
大手生命保険会社に就職後、1社専属商品だけではお客様のニーズには合致が困難と大手総合金融会社に転職。大手総合金融会社での経験を経て現在は独立系FPとして現在の会社に所属。担当顧客400人を超え、法人実務経験も豊富に持つ。