提携専門家相談事例

企業の賠償責任【基礎編(後篇)】マネジメント力アップのための知識整理!

みなさんこんにちは!企業損害保険コンサルタントの増木です。

今回はさらに深い部分を追求する、賠償責任に関する基礎(後篇)をお伝えしたいと思います。

万一大きな賠償事故が起こった時、負うべき責任の範囲は4つの責任とご紹介させていただきました。今回は後半の③④となります!

①社会的な責任   ②行政上の責任

③民事上の責任   ④刑事上の責任

③民事上の責任 

こちらがまさに「民事上の賠償責任」つまり、金銭的な賠償(弁償)ということになります。

「保険」がカバーすることのできる、唯一の領域です。

ここで注意すべきは、すべての民事責任を保険がカバーできるわけではないということです。
特に気をつけていただきたいことは以下の通りです。

1.限度額以上は補償されない

2.免責金額以内は補償されない

3.法律的な賠償責任の範囲は超えられない

4.当事者間で加重された責任は補償されない

1.限度額以上は補償されない

自動車保険などは「対人・対物賠償は無制限」という設定が可能ですが、企業用の賠償保険において、無制限は通常無い事がほとんどです。必ず、限度額を決めて契約することになります。

一般的には1億~3億円程度の契約が多いですが、その事業や作業などの特性により、限度額を拡大して契約すること、または取引先から限度額の引き上げを求められることがあります。

例えば鉄道の近くで建設工事などを行なう場合、鉄道会社から高額の補償対応が可能な保険に加入する事を条件とされることがあります。

 

2.免責金額以内は補償されない

保険料節約のため、免責金額を設定する契約もありますが、免責金額を設定した場合と免責なしの場合とであまり保険料が変わらない事もあります。両方の金額を比較して、合理的な方を選ぶと良いでしょう。

自動車保険などで各車両に対物賠償の免責金額を設定する場合もありますが、たとえ10万円の免責でも、色々な車で頻発してしまうとかなりの自己負担になってしまう事もある上、免責範囲内におさまりそうな少額の事故ですと、保険会社が示談交渉してくれない事もあり、ご自分で対応しなくてはいけい場合もあるので注意が必要です。

3.法律的な賠償責任の範囲は超えられない

特に賠償保険で揉める要素は、「時価」という考え方です。
一般的に賠償責任における「物の価値」を決める時、その基本的な考え方は「いくらの物」を「いつ購入したか?」です。

例えばハウスクリーニング業者さんが作業中、あやまってエアコンを壊してしまいました。
購入当時、エアコンは15万円くらいしたのですが、10年も経過してしまうと、その価値はせいぜい1割~2割程度、1~3万程度と評価されてしまいます。

 

被害を受けた方からすると、再度新品を購入するのに、なぜこちらが負担しなくてはいけないの?と思われるでしょう。
直してくれればそれでいい。と言ったとしても、型が古くてすでに部品がないので修理不能、直せたとしても時価を超える修理費用となってしまう場合などは、なかなか納得いかないことでしょう。

相手のものを壊して使用不能にした場合、

「法律的な賠償責任の範囲」は「時価」までとなります。

 

また「これは亡くなった親族が愛用していた貴重なものだった」とか、「このデザインは限定販売でもう手に入らない」とか、「エアコンが使えない間不快な思いをした」、「そのおかげで体調が悪くなり、家族が風邪をひいた」などといったことを言いだすとキリが無く、範囲は無限に広がってしまいます。

こういった事柄は法律上、加害者と被害者の公平の観点から望ましくないとされていて、「通常生じるであろう損害」を賠償させることを原則とし、特別な事情による損害は、一般的に予見できたときのみ賠償請求が可能となります。

自動車保険においては「時価額を超える修理費用」について、一定額までを補償して事故解決をスムーズにする特約を導入する会社が多くなりました。

 

4.当事者間で加重された責任は補償されない

賠償保険の約款において、多くの場合「加重された責任」については保険金を支払わないことと設定しています。

簡単に申し上げますと、何か壊したら事故処理の手数料・迷惑料として一律10万円申し受けますというような約束があり、そういった賠償責任があったとしても、それに関しては保険金の支払対象外とします、いうことです。

具体的な分別で言いますと、

①責任発生の要件を緩和するもの(過失がなくても賠償する、不可抗力であっても賠償する等の契約)

②法律上ほかの者が負うべき法律上の賠償責任を被保険者が肩代わりするもの

③法律上課せられるべき責任の額以上の賠償責任を負うもの

実はこちらは特別なことではなく、日常的に頻繁に起こっている事なので、また改めて別の記事で詳しくご説明させていただきますが、特に建設業などの元請・下請間などで起こることが多いです。

事故があった場合、元請さんがお客さんのところに出ていって謝罪、元請さんがこれもこれも全部弁償しますね!あ、ついでにサービスでこれも直しておきます!などとお客さんと約束してしまい、それを下請がすべて責任を取らされてしまうというパターンです。。

取引上の弱みを握られ、仕方なく受け入れる業者さんも多いですが、当然全額を保険でお支払いは難しく、自己負担も高額となってしまうケースもあるので、注意が必要です。

④刑事上の責任 

大きな事故の場合、特に対人被害が出てしまった場合、どうしても避けられない責任がこちら、刑事上の責任です。

たとえば運送会社で長距離ドライバーが飲酒運転を起こし、死傷者が出てしまった場合などは、運転していた本人だけでなく、そういった労務体制を管理している経営者にも刑事責任が問われます。

罪名は『業務上過失致傷罪』『業務上過失致死罪』などです。

前述の行政責任は「免許停止」「免許取り消し」などの処分のことを言い、刑事責任は実際に刑罰「懲役」や「罰金」を伴うものとなってしまいます。

従業員が起こしたことだから自分は関係ない、では済まされないのが世の常ですね。

状況にもよりますが、経営者の責任が問われるポイントとしては、

『最大限の注意を促し、普段から指導・管理を徹底していたにも関わらず起こった予見不能な出来事』だったのか、それとも・・

『不注意・不感心が重なり、危険な状況を無視・放置していたために必然的に起こった、十分予見できる出来事』なのかで大きく責任が異なることでしょう。

お客様や第三者への安全配慮を最優先、そしてもちろん、従業員の安全もしっかり守れる体制を取っていくことが、経営者にとっての永遠の課題であるとも言えます。

ケガのリスクや事故のリスクと常に隣り合わせの業種は多数あります。
建設・運送・製造に限らず、飲食や美容業界も事故が多い業種です。

しっかりとした注意喚起・管理体制を常に維持する事が、事故そのものを無くし、いずれは御社の将来的な発展・品質向上につながりますから、明るく前向きに取り組んでいただけると幸いです!

今回のまとめ

■民事上の責任をすべて保険でカバーできるわけではない
⇒カバーできない部分を知って事前対策を取ることが重要

■刑事上の責任は当事者だけでなく経営者にも責任が及ぶ
⇒日々の業務管理・対策が重要

事業者(企業・個人事業主)の賠償責任に関するご相談は随時お受けしております。

保険という狭い視野だけで考えるのではなく、業務全般やご意向を尊重した上で、多角的な視点と事業のご発展のサポートを含め、的確なアドバイスが出来るよう、努力させていただきます。

※ご相談いただいても、もちろん弊社で保険加入いただく必要はございません。
お気軽にお問合せください。

 

執筆者:企業損害保険コンサルタント・増木 新也

総合保険代理店 株式会社プレミアサポート経営者
企業の損害保険分野・リスク管理を専門とし、リスク管理や事故対応において顧客企業から大きな満足を得ている。また、オリジナルアプリを活用した顧客サービスや経営者支援のためのグループ運営、イベント企画など、ユニークかつ積極的な活動を行っている。

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