提携専門家相談事例

遺言作成のすすめ② ~がっかりな遺言にしないために~

自筆証書遺言について

みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回は、法定後見制度を利用する前のご本人がお元気なうちから取っておくべき対策のなかから、遺言について、実例を交えてご紹介しました。今回はその続きです。

ご自身で遺言を書く方法(自筆証書遺言)での作成にあたっては、下記の点に注意すると良いでしょう。

①法的要件を満たす
②曖昧な表現は避け、明確な内容で自身の意思を反映させる
③項目や財産に記載漏れがないようにする
④残された相続人が困らない内容にする

実務で多くの遺言を扱っていると、上記の①はクリアしていることが多いです。②については、前回ご紹介したような、曖昧な表現で「無効」な遺言と扱わざるを得なかった例のようなものがたまにあります。今回は、比較的多い、③や④について不十分な点がある「がっかり」な遺言の事例をご紹介していきます。

付言事項

遺言書に記載することで法的効力が与えられるものを「法定遺言事項」と言います。一方、法的効力を与えることを直接の目的としないものが、「付言事項」です。付言事項は、自由に記載できるため、家族へのメッセージや葬儀・納骨に関する希望等を伝えることができ、相続トラブルを防げることができるなどのメリットがあります。

残された相続人が困らない内容にするべき、とはいっても、相続人間で完全に平等な内容にするというのは簡単なことではありません。相続財産の取り分が少ない相続人は不満を感じることでしょう。しかし、そのような内容の遺言を作成した経緯を付言事項に書くことで、相続人の不満が解消されることも少なくありません。

事例紹介

①記載漏れ

たったひと言書いておいてくれれば、というがっかりな例です。(実際とは内容を少し変更しています。)

<内容>

遺言者(男性・80代でご逝去)は生涯独身で子がなく、相続人は兄弟3名(兄A、弟B、妹C)。子がいないと相続手続きで兄弟が大変になるからと、自筆証書遺言を残されました。

遺言には、「私が亡くなったら、財産のうち、自宅不動産については兄Aに、預貯金については弟B、妹Cに2分の1ずつ相続させる。」と記載されていました。(他の遺言の要件は満たしています。)

<問題点>

上記の内容で相続手続きを終え、兄Aは今後不動産の管理をしてくことも難しいため、売却に向け準備を始めました。そんななか不動産に関する書類を確認していたところ、「北海道の原野」の権利証が出てきました。登記情報を確認したところ、確かに遺言者の名義になっています。遺言に財産の記載漏れがあることが発覚したのです。

<対応>

この不動産に関する記載がなく、遺言を使った相続手続きを行うことができないため、相続人全員による遺産分割協議によることになります。ただ、北海道の原野を取得しても管理もできず、責任を取ることができないと兄弟3名の誰も取得を希望せず、手続きが一向に進まない状態が進みました。

その後、相談していた不動産業者よりこの不動産を買っても良いという方が見つかったとの連絡がありました。金額はタダ同然、仲介手数料を支払うとマイナスになります。ただ、これを機に処分することで問題を先延ばしにせずすっきりさせることができます。

兄弟に相談したところ、兄Aが相続した自宅が思ったより高値で売却できる見込みになったこともあり、自身が費用を負担して処分する方向で進める方針になりました。その後、遺産分割協議書の作成、相続登記手続きを経て、無事売却が済み、全ての相続手続きが完了しました。

今回のケースで足りなかったのは、「その他一切の財産は○○に相続させる。」のひと言です。これさえあれば、遺言による手続きが可能でした。自身も忘れている財産があることもあります。この一文は予防の意味でも入れておくことをおすすめします。

②個人年金保険

自宅や預貯金については、遺言に漏れなく記載されていることが多いですが、保険については忘れがちです。また、相続財産とは分けて考えなければならず、注意が必要です。(実際とは内容を少し変更しています。)

<内容>

遺言者(女性・90代でご逝去)。夫、ひとり娘に先立たれ、相続人は兄弟3名(兄A、弟B、妹C)。お世話になったいとこDに財産を託したいとの思いで、自筆証書遺言を残されました。

遺言には、「私が亡くなったら、自宅、預貯金その他一切の財産は、私の世話をしてくれた、いとこDに遺贈します。」と記載されていました。(他の遺言の要件は満たしています。)

<問題点>

相続手続きにあたり、財産関係を整理していたところ、下記の年金保険に加入していることが分かりました。ここで、個人年金受取中に受取人が死亡した場合、残りの年金はどうなるか、という問題が出てきました。遺言にある「その他一切の財産」としてDが取得できるのでしょうか?

個人年金保険(確定年金):
遺言者が被保険者=年金受取人、保険料は払込満了で、年金受給中(期間10年のうち5年受給済み、残り5年)、後継年金受取人の指定なし

<対応>

保険会社の約款上、「年金支払期間中に、年金受取人が死亡した場合は、後継年金受取人の指定がある場合はその者が、指定がない場合は、年金受取人の法定相続人が均等に権利を承継する」となっていました。遺言では年金受取人について一切触れられておらず、また、契約上も後継受取人の指定がないため、法定相続人の固有の財産となり、遺言者の「その他一切の財産」には含まれないことになります。

兄弟3名(兄A、弟B、妹C)には、当初、遺言によりDがすべての財産を引き継ぐとお伝えしてしまっていたのですが、事情を説明し、保険会社の必要な手続きを取っていただき、残りの年金を均等に引き継いでもらいました。

今回のケースでは、Dにすべてを引き継いでもらうために、遺言作成にあたって、年金保険の受取人について保険会社の約款上どうなっているか確認しておくことが必要でした。そのうえで、後継年金受取人については、あらかじめ、もしくは遺言により、指定することが可能ですので、検討するべきでした。(※ただし、配偶者や3親等内の血族に限るとしていることが多いので注意が必要です。)また、年金の未支給分を一括して受給しておくのも良かったかもしれません。(結果的に遺言記載の預貯金としてDが引き継ぐことになります。)

 

まとめ

前回、今回と遺言について見てきました。せっかく作ったのに、遺言に基づいた手続きができなかったということにならないためにも、細かい部分までよく検討してお作りいただければと思います。

ただ、引き継ぐとした方が先に亡くなってしまった場合に備えた「予備的遺言」についてや、民法上、相続人が財産を引き継げる最低限の割合である「遺留分」について等、検討すべき点は多岐に渡りますので、専門家にご相談されるのが安心です。

一般的に、法定相続人がいない方が遺言を残しておくべき、とされていますが、相続人のいらっしゃる方でも、ご自身の意思の表明の手段として多くの方に利用して欲しいと思っています。死期が迫ってから書くというイメージがありますが、そんなことはありません。残念ながら歳を重ねるにつれて判断能力も衰え、面倒になってきてしまうことの方が多いのが現実です。思い立った今、ぜひ作成を検討して欲しいと思います。

ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。

執筆者:司法書士 高橋 伸光

司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。

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