成年後見人の報酬
みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回に引き続き、法定後見制度の後見人報酬について、私の実体験をもとに事例をご紹介したいと思います。
さて、成年後見人は、家庭裁判所に対し、年に1回、後見事務報告を行いますが、その際に、報酬付与の申立ても行います。報酬付与申立ては義務ではありませんので、特に親族で後見人をされている方は、報酬付与の申立てをしないことが多いでしょう。
ただ、専門職後見人は報酬をいただいて業務として行うのが前提です。では、ご本人の財産が少なく、報酬が支払えないケースではどうすればいいでしょうか。
実際にあったケース
実際に私が担当させていただいているケースをご紹介します。(分かりやすいように実際と若干内容を変更しています。)
◎当事者
ご本人:男性(70代) 軽度の認知症により後見制度利用を希望
◎経緯
・ご本人に近しい親族はなく、ご友人が金銭管理を含めサポートしていたが、その方も高齢になり、支援を続けることが難しくなってきた。相談を受けた市町村の障害福祉課が、後見開始申立と実際の後見人への就任について、司法書士に相談するのが適切と考え、私に連絡があった。
・ご本人は、ホームヘルパー等の介護サービスを利用することで、入院や施設入所する必要はなく、自宅で生活できるが、仕事をして収入が得られる状態ではなく、自宅アパートの賃料や生活費で唯一の収入である年金は費消してしまう。
◎障害福祉課の方の声
相談にはのっていただきましたが、「報酬が払えないので諦めます。」
後見開始の申立が出来る人(申立権者)は?
民法では、申立をすることができる者について、本人、配偶者、四親等以内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、後見人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官とされています。従兄弟は四親等以内の親族に当たるので申立てすることができます。
解決方法(成年後見助成基金)
さて、申立てや後見人の報酬について、財産が少なく支払えない場合には、各市区町村で設けている報酬助成の制度(成年後見制度利用支援制度)を利用することができます。 ただ、各市区町村によって助成上限額や利用条件が異なりますので、詳細は福祉担当窓口に相談してみましょう。
さらに、各市区町村で報酬の助成を受けられない場合には、司法書士で組織する、公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポートの公益信託 成年後見助成基金へ応募するという方法もあります。
今回のケースでは、他に援助できる人もなく、せっかくいただいたお話なので、後見人としてサポートさせていただきたい。そういった思いで、要件を確認した結果、この助成基金を利用できることが分かりました。
以下、令和3年度の実際の応募の要件です。
(1)既に就任(2020 年 3 月末までに就任が確定)した成年後見人等が後見事務を1 年以上行っていることとします。ただし、親族が成年後見人等に就任している場合を除きます。
(2)後見事務の内容に照らし適正な報酬を支払うことができないものであることとします。
(3)本年度は、成年後見制度利用者の年齢が概ね後期高齢者又は、知的障害者・精神障害者等で、本人の預貯金額が 260 万円以下であり、かつ他に資金化できる適当な資産がないこととします。
(4)保全処分の財産管理人の就任にかかる報酬は該当しません。
(5)報酬付与審判申立てをしていない期間が対象となります。
※募集期間(4 月)中に報酬付与の審判がおりた場合、助成金給付の対象にはなりません。
(6)対象期間は、2021 年 3 月以前の期間のうち 1 年間以内とします。
※過去分であれば、古い期間の指定も可能です。
(引用 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート)
審査が通れば、原則、月額 1 万円を限度に助成されます。さて、前回の記事で家庭裁判所がめやすとして提示している後見人の報酬月額を覚えていらっしゃるでしょうか?
めやすは最低月2万円です。
少し足りないということであれば、ご本人から半分、この助成基金から半分という形で全額いただくことはできるでしょう。ただ、本当に余裕のない方については、ない袖は振れないわけですから、裁判所の報酬の付与決定として金額が出ていても、その半分だけ助成基金からいただき、残り半額はいただけないということになるでしょう。
今回のケースでは、従兄弟さんのご協力を得て、私を後見人候補者として申し立てをした結果、希望通り私が選任され、後見業務がスタートしました。その後、家庭裁判所への定期報告と報酬付与の申立ての時期になり、この助成基金に応募したところ、審査が通り、月額 1 万円が助成されることになりました。裁判所が決定した報酬は、めやすの通り月2万円でしたが、助成された半額だけをいただくことにし、その後も毎年、この方法で報酬をいただいています。
まとめ
専門職後見人は、当然、業務として後見人になり、相応の報酬をいただくことを考えています。では、財産が少なく、報酬が支払えない人のご相談は断ることになるのでしょうか。
いいえ、後見制度は必要な人が利用できるものでなくてはなりません。
専門職後見人の責務として、利用できる助成制度を検討のうえ、後見制度を利用できるようにお手伝いする必要があります。
一方で、お持ちの財産が少ないと、私のように、本来いただける報酬の半分しかもらえないということもあり得ます。実際に後見人についたときの業務量を想定し、どうしても見合わないと思えばお断りすることもあるか思いますが、そのあたりは依頼を受けたそれぞれの専門家の考え、方針によるところだと思います。
ただ、こういった助成制度を利用し、少しでも多くの方の後見人としてサポートしようをいう専門家は多いので、お持ちの財産が少ないからと簡単に諦めることなく、ご本人のために後見制度の利用を積極的に検討していただけたらと思います。
ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。
執筆者:司法書士 高橋 伸光
司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。