提携専門家相談事例

「二重に報酬を支払うの?」 ~後見人だけでない、後見監督人が選ばれる場合とは?~

成年後見監督人とは?

みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回に引き続き、法定後見制度について、私の実体験をもとに事例をご紹介したいと思います。

さて、今回は成年後見監督人について。この監督人は、後見が開始すれば必ず選任されるのではなく、家庭裁判所が「必要があると認めるとき」に選任することになり、一般的に、法律の専門家である司法書士や弁護士が選任されることがほとんどです。

では、監督人が選任される「必要があると認められるとき」とはどのようなときでしょうか。以下のようなケースが挙げられます。

監督人が選任されるケース

①預貯金の金額や収入の額が多い場合など、財産管理の規模が大きい場合
②後見人の体調や年齢などから、事務手続きを行なうのに不安がある場合
③収支の変動が大きく、定期的に財産の確認が必要な場合
④本人の財産状況が不明確な場合
⑤後見人と本人との間に利益相反がある場合などの場合

なお、最近では前回ご紹介した、後見制度支援信託を利用することで監督人をつけなくても良いとするケースも増えています。例えば、上記のケース③では、最初は監督人がつくが、大きな収支の変動が落ち着いたら信託を利用し、監督人が辞任するということがあります。ただ、信託の利用に適さないケースもありますので、その場合、監督人は残り、引き続き後見業務をチェックすることになります。

任意後見監督人
一方で、ご本人の判断能力があるうちに、将来、自らの判断能力が低下した場合における財産管理や介護サービス締結等の療養看護に関する事務について、信頼できる方に依頼し、引き受けてもらう契約を結ぶ、「任意後見契約」では、任意後見監督人の選任は必須です。任意後見人のサポートが必要な状態になったら、監督人の選任の申立てを家庭裁判所に行い、選任されることで、任意後見契約の効力が発生し、任意後見監督人による監督のもと、任意後見人による支援が開始されます。

実際にあったケース

それでは、実際に私が監督人をさせていただいたケースをご紹介します。(分かりやすいように実際と若干内容を変更しています。)

<<状況>>

◎ご本人(被後見人)

女性(80代) 高齢に加え、認知症も進んでおり、後見制度利用を希望

◎申立人 長男(60代)

可能なサポートはしたいが、住まいが離れているため物理的に難しい。

後見人候補者 行政書士

申立人が相談した、ご本人の自宅近くの経験豊富な専門家

経緯
後見開始の申立てをした結果、候補者を後見人に選任するが、監督人を付けることが適切と家庭裁判所が判断。理由は、ご本人が賃貸アパートを保有しており、空き部屋の入居者募集にあたってのリフォームや、入居者が決まった際の賃貸借契約が必要なこと等、収支面や法的手続き面で状況が安定するまでチェック体制を整える必要があるため、また、収支が安定したら後見制度支援信託の利用を検討する必要があるためとのこと。

専門職後見人について
専門職後見人は、弁護士、司法書士、社会福祉士の3士業がなるケースが多いです。それは、専門職のなかで法律上後見業務を行える規定を明文で有するのは弁護士及び司法書士のみであり、社会福祉士も法律上、主に身上監護の面から業務を行える根拠を有しているため、裁判所もそれを根拠にこの3士業を「専門職」として選任する運用をしているからです。
一方、行政書士は後見業務を行うことは法律上定められておらず、「業」として行えるわけではありません。それぞれの専門職としての経験を生かしつつ一個人として行っているにすぎず、専門職能の「職業」後見人ではありません。

※行政書士のなかには、後見業務をメインに取り扱い、とても熱心に誠実に対応されている先生が多くいらっしゃいます。この記事は、行政書士が後見業務の専門家としてふさわしくないという趣旨ではありませんので申し添えます。

後見監督人の必要性

このケースでは、後見人が行政書士、監督人が司法書士という、2人の専門職がつくことになりました。そこで、息子さんからは当然こう聞かれます、「二重に報酬を支払うの?」

この場合、後見人、監督人がそれぞれ家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い、決まった金額をご本人の財産から頂戴することになります。では、明確な法的根拠がないからといって、チェック体制強化や信託の検討のために、後見業務の専門家にさらに監督人をつけるというのは本当に必要なのでしょうか?

確かに監督人として専門職をつけることで、ご本人や後見人のサポートにつながることも多いですが、今回のようなケースでは、それ以上にご本人の報酬負担の方が大きいように思います。家庭裁判所としては、負担軽減のため後見制度支援信託を積極的に利用するようになりましたが、後見人の職業や年齢、これまでの報告状況から、監督人をつける必要があるかどうかという検討はされず、機械的に判断されているものと推察します。

今回のケースは、その後、無事アパートの入居者も決まり、収支が安定した状態となりましたが、リフォームに思った以上にお金がかかり、結果的に信託の利用を検討するほどには預貯金は残りませんでした。そこで、裁判所に対し、信託を利用しないことと、私の監督人辞任の申出をしたところ、その通りに決まり、後見人ひとり体制でご本人のサポートを継続することとなりました。

まとめ

後見開始の申立てをするに至った経緯は人ぞれぞれであり、ご本人のおかれた環境、財産状況、今後予定されている手続き等はバラバラです。希望した候補者が後見人に選ばれないこともあれば、今回ご紹介したように監督人が選任されたり、後見制度支援信託の利用を勧められたりすることもあります。どういった体制になるか、また、今後かかる費用(報酬)の見込みを判断するには、経験豊富な専門家にアドバイスを求めるのが良いと思います。

また、この超高齢社会の日本において、まだまだ後見制度の利用が少ないのは、報酬の負担という点が理由のひとつに挙げられるのは間違いありません。法的根拠に基づく3士業のほか、近接士業も「専門職」と認め、担い手を増やす一方、ご本人、親族、専門職が納得のいく報酬基準を設け、利用しやすい仕組みにすることが課題になってくるでしょう。

ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。

執筆者:司法書士 高橋 伸光

司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。

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