提携専門家相談事例

遺言作成のすすめ ~無効な遺言にならないためのポイント~

生前の対策について

みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
これまで法定後見制度について、私の実体験をもとに様々な事例をご紹介してきました。ご家族が後見制度を利用していたり、今後その予定があるという方にとって参考となればと思っています。

ただ、後見制度を利用すると、ご本人に判断能力がないということになり、契約や制度の利用が制限されてしまいます。そうなる前、ご本人がお元気なうちから取っておくべき対策は実は多くあります。一般的には、下記のようなものです。

・遺言
・継続的見守り契約
・財産管理委任契約(任意代理契約)
・任意後見契約
・死後事務委任契約
・生前贈与
・民事信託

今回はこれらの様々な生前対策のなかから、私もお手伝いさせていただくことの多い遺言について、事例をご紹介できればと思います。

自筆証書遺言とは?

そもそも遺言とは、大きく分けて、①財産、②身分、③遺言執行、④その他に関する事項を記載し、遺言者が亡くなったあと、その意思を実現するためのものです。

一般的には、お持ちの財産について、民法で決まっている法定相続分とは違う形で引き継いで欲しいという思いから作られることが多いかと思います。例えば、相続人以外の第三者に残したい(遺贈)、法定相続分とは違う割合を決める(相続分の指定)、どの遺産を誰に分けるか、どの遺産分割方法を用いるかを具体的に決める(遺産分割方法の指定)等です。

さて、民法では、遺言の方式を定めていますが、一般的に利用されているのは、遺言する人自らが書く自筆証書遺言と、公証人の関与のもと作成する公正証書遺言です。

自筆証書遺言は誰の関与もなく、自分1人だけで作成することができます。遺言書の効力は公正証書遺言と同じですが、自分だけで作成できるため、本人の意思で作成したか否かが争われることもあり、また、遺言者本人が亡くなった後に本人の真意を確認することができないため、あいまいな内容ではトラブルのもととなることもあります。

また、自筆証書遺言の作成には、①全文を自書、②氏名及び日付を自書、③捺印、といったルールがあり、要件を満たさないと無効なものとなってしまいます。

◎自筆証書遺言書保管制度
こういった自筆証書遺言のデメリットを解消する手段として、2020年7月10日から、法務局による“自筆証書遺言保管制度”が始まりました。これは管轄の法務局で、自筆証書遺言を保管してもらえる制度です。この制度を使うことで、紛失や偽造の恐れはなくなりますし、検認手続きが不要となるため、亡くなった後の相続手続きがより早く始められるというメリットがあります。また費用については、遺言書保管申請一件につき3900円ですので比較的利用しやすく今後利用が増えていくと思います。


(出典:法務省ウェブサイト http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

書籍やインターネットで、書き方の紹介等、様々な情報が出回っていますので、詳細はそれらに譲り、以下、私の体験談をご紹介したいと思います。

「任せる」遺言

私も遺言に基づいた相続手続きを多くさせていただいておりますが、この件は、困った遺言として、いつも思い出します。(説明実際とは内容を少し変更しています。)

内容

遺言者母の法定相続人は子3名(長女A、二女B、、三女C)。母とA、Bは仲良くしているが、Cは何年も前から疎遠となっています。相続手続きがスムーズに行くように、との趣旨で遺言を残しました。

「私が亡くなったら、財産については、私の世話をしてくれた長女Aにすべて任せます。」

といった旨の記載がされていました。(他の遺言の要件は満たしています。)

しかし、このような文言では、遺産の全部をAが相続する趣旨であるのか、あるいは、他の相続人との遺産分割手続をAが中心になって行なうように委ねる趣旨であるのか判断できません。

考え方

遺言の解釈は、遺言書の全体の記載内容、遺言書作成当時の事情や遺言書の書かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探求して行う必要があります。「任せる」とあればすぐに無効となるわけではありませんが、これまでの裁判例では、遺産の取得することに、肯定したものもあれば、否定したものもあります。

対応

「遺言者の真意を探求」といっても、記載内容では判断できず、A、Bの話を聞いても当時の事情等からAが相続すると自信をもって判断することはできませんでした。
この場合、遺言を使うことができないので、「相続人全員による」遺産分割協議によることになります。そう、疎遠になっているCに協力をお願いしなければならないのです。

Cの住所にお便りを送っても連絡が取れず、とても困りました。何ヶ月も動きが取れないでいたところ、幸いにもCからお電話いただき、経緯をご説明したところ、Aが取得することにご納得いただき、遺産分割協議書の作成にご協力いただけました。

相続後に面倒なことにならないよう作ったつもり遺言が、そのまま使うことができず、かえって手間がかかったという典型的な例だと思います。

まとめ

超高齢社会となり、今後のことを考え遺言を残される方が増えてきてはいるものの、欧米に比べればまだまだ少なく、国としても自筆証書遺言の保管制度を創設し、利用の促進を考えていますので、ご自身と残された相続人のためにももっと増えて欲しいと思っています。

ただ、ご自身で作成するにあたっては内容にはくれぐれもご注意ください。自分で書く、日付や押印が必要といった最低限の要件はクリアすることはできるかと思いますが、今回ご紹介した「任せる」といった曖昧な表現はかえって混乱することになってしまいます。

次回も引き続き遺言について事例のご紹介ができればと思っています。

司法書士は、一緒に文案を考え、自筆証書遺言の作成、保管制度利用のサポート、公正証書遺言作成にあたっての公証役場とのやり取りといったお手伝いをすることが可能です。

ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。

執筆者:司法書士 高橋 伸光

司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。

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