みなさんこんにちは!企業損害保険コンサルタントの増木です。
本日は経営者や経営者を目指す皆様向けに、賠償責任に関する基礎をお伝えしたいと思います。
万一大きな賠償事故が起こった時、負うべき責任の範囲は4つの責任となります。
その4種類とはズバリ!
①社会的な責任 ②行政上の責任
③民事上の責任 ④刑事上の責任
となります。
前篇の今回は、①社会的な責任と②行政上の責任についてご案内させていただきます。
①社会的な責任
社会的な責任は「道徳的責任」とも呼ばれる責任です。
広い意味としては、企業の社会的責任で、いわゆるCSRと呼ばれる、幅広い分野に企業が与える影響を考慮する必要があるのですが、
CSRに関してはまたの機会にご説明するとして、今回は日常生活で起こりうる、身近な賠償責任部分に関してのみご案内させていただきます。
【例えば飲食店の場合】
配ぜん中の食事を誤ってお客様にぶつけてしまい、お客様の衣服を汚してしまった事故が発生した!
この場合、実際はお客様の不注意や、お客様からぶつかって来た場合もあるかもしれませんが、今後のあらゆるリスクヘッジを考えて、まずは「謝罪する事」がとても大切です。
ここで大切な事は、「謝る」=「過失を認める」という事ではないという事です。
せっかく楽しいお食事に来られたにも関わらず、不快な出来事が起こってしまった事、楽しいお時間を提供できなかった事に対して、
「ご不便をおかけしてしまい、申し訳ありません。」という意味で謝罪をするという姿勢が大変重要となります。
状況によっては「それはうちのせいでないです、お客様が悪いのではないですか?」と反論したくなる方もいらっしゃるとは思うのですが、まずは謝る!という事が後々良い結果となります。
どちらが悪いとかはその場では判断せず、まずは低姿勢での対応をし、後ほど対応については検討させていただくという冷静な姿勢を取れるよう、事業主はもちろん、従業員全員が共通の認識とできるよう、常に周知する状況を作りましょう!
「賠償事故は初動が肝心!」
賠償の最終的な解決には「法律的な責任」というよりも、「感情」が大きく影響します。
仮に損害賠償額が1億円になる案件があったとして、相手の対応次第では「請求しない」という選択肢もありますし、一歩間違えば請求金額は2倍3倍に膨れ上がることもあります。
初期の対応で「誠意ある対応をすること」でその後の結果が大きく変わることは間違いありません。
人間は「不快なまま過ごす時間」が長くなれば長くなるほど、損害賠償請求したいという思いが強くなります。
案外、感情を害さないということは、問題解決の重要なカギとなりますので、常に意識しておく必要があります。
①社会的な責任(道徳的責任)については保険で完全対応することができません。
※謝罪時のお見舞い費用や、謝罪広告費用、コールセンター設置など、一部の対応費用が対象となる保険は存在しますが、実質的な責任は保険会社ではなく、経営者や当事者が負う事になります。
例えば自動車事故のやり取りで、「事故の事は保険会社に任せているので・・」と言って加害者側からの謝罪がないことにより、交渉が決裂したり、被害者側の要求が増えたり、示談書にサインしてもらえなかったりと、必要以上に長引くケースはよくある事です。
これは、「ちゃんと弁償してあげるのだから、謝る必要はない!」と言う大きな勘違いからくる発想です。やはり迷惑をかけたことには違いないし、金銭ですべてを償うことはできないので、謝罪するという礼儀を省略はできません。
企業経営者はしっかりと自覚を持ち、トラブルの初動対応はもちろん、その後も社会的責任、道徳責任をしっかりと果たしていく姿勢が求められます。
また、この姿勢を保つことにより、対応次第ではこういった賠償事故を起こしてしまった「トラブルやピンチ」が逆に「高評価や信頼回復、増収増益」という好機につながる事もありますから、意識して取り組んでいきたいものです。
②行政上の責任
これは業種により様々なので、色々なケースが考えられます。ここでは飲食店で考えてみましょう。
【例えば飲食店の場合】
お客様に提供する食材に「食中毒菌」が混入してしまい、それを食べた複数のお客様が「食中毒」になってしまい、集団で大きな健康被害をもたらした。
食中毒を発生させてお客様に健康被害を与えてしまった場合、行政から営業停止命令を受けることがあります。さらに営業許可や免許の取り消しなど、事業の存続さえも危うくなる責任を負わされることになります。
②行政上の責任については保険で完全対応することができません。
※食中毒や異物混入事故、その他一部の事故に関しては、営業停止命令が出た場合の利益などを一定期間補償する保険は存在します。
こういった事故だけでなく、顧客とのトラブルが発生した会社は、後日行政の調査が入る事があります。
調査の結果、衛生管理や安全配慮義務が遂行できていない会社はもちろん、他にも営業方法そのものに問題がある会社、過剰な広告で違法な集客をした会社などは、かなり長い期間の業務停止処分を受けるケースもあります。
「そんな事は気にしていなかった、それでいいと思っていた、従業員が勝手にやった事だ!」という主張は通りません。
消費者庁のホームページから行政処分を受けた企業への通達文書を閲覧することが可能です。どんな例があるのか、一度ご自分で実際に閲覧されることをお勧めします。
https://www.caa.go.jp/business/disposal/
このように行政上の責任は大きく、社会的に不名誉な事で有名となってしまった場合には、
集客が不利になることはもちろん、従業員の退職を誘発、新規採用も困難となります。
企業にとっての法令遵守は経営の命綱。コンプライアンスを守り、信用を高める努力を惜しまないことは経営者にとっての大切な責任ですね。
ついつい「忙しい、面倒だ、そんなことかまってられない。。」と言い訳するのは簡単ですが、継続的に安定した経営をめざすには、法令遵守を常に念頭においた経営をこころがけましょう!
また、①との違いは謝って済む問題ではないという事です。
何か問題が起こった場合、経営者はたくさんの責任を負わなくてはいけない。
しかもそれに対応する保険は、業種によってはまったく存在しないことになり、
経営者自身がそのまま「リスク」として保有しなければいけないものなので、慎重な対応が必要な領域となります。
これらのことを踏まえ、今一度改めて
・ご自分の業種に発生しやすい事故例
・事故対応の手順やマニュアルの見直し
・従業員への事故、トラブル対応方法の指導
・関連する営業許可や法令関係の確認
・コンプライアンスマニュアル、通達などの確認
・万一事故が発生した際の監督官庁への届け出方法の確認
などをこの機会に見直ししてみてはいかがでしょうか?
以上、今回は①社会的な責任と②行政上の責任についてご説明させていただきました。
みなさんの経営の姿勢を考える一助となりましたら幸いです。
次回は③民事上の責任と④刑事上の責任についてです。ぜひご一読ください!
事業者(企業・個人事業主)の賠償責任に関するご相談は随時お受けしております。
保険という狭い視野だけで考えるのではなく、業務全般やご意向を尊重した上で、多角的な視点と事業のご発展のサポートを含め、的確なアドバイスが出来るよう、努力させていただきます。
※ご相談いただいても、もちろん弊社で保険加入いただく必要はございません。
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執筆者:企業損害保険コンサルタント・増木 新也
総合保険代理店 株式会社プレミアサポート経営者
企業の損害保険分野・リスク管理を専門とし、リスク管理や事故対応において顧客企業から大きな満足を得ている。また、オリジナルアプリを活用した顧客サービスや経営者支援のためのグループ運営、イベント企画など、ユニークかつ積極的な活動を行っている。