こんにちは、ファイナンシャルプランナー(FP)の大熊雅貴です。
皆さんは『限定品』は好きですか?私は無茶苦茶好きです(笑)。
例えば、『限定コラボ』や『○人様限定』、『ご当地限定』などなど…。旅行に行くと「ここにしか売っていない…」や「今しか買えない」など「後で後悔したくない!」と思って思わず買ってしまい、あとでなぜ買ったか分からずに後悔したことがたくさんあります(笑)。
まだ、お土産などは次から気をつければ良いのですが、同じことが、土地やマンションを買おうとするときにも、しばしば起こります。探していた地域で急に理想の土地やマンションに出合ってしまうと「もうこんな物件には二度と出合えないかも」と思い込んだり、「次の方が待っていますので来週までにお返事ください」などと言われて、ついつい背伸びした住宅ローンを申し込んでしまい、後で後悔しながらご相談に来られる方を何人も見てきました。
人生最初の“3大資金”とは
ところで、人生の3大資金という言葉をご存じでしょうか?
人生において、最も大きな支出は「住宅資金」「教育資金」「老後資金」です。30代になってくると、一生のうちで稼ぐことができる生涯所得がある程度見えてきますが、その枠の中で3大支出のバランスを慎重に考えなければなりません。
住宅資金のご相談にいらっしゃるお客様には、必ずこの「3大資金」のお話をしながら、ライフプランを考えていただくことにしています。このライフプランから、どんな暮らしがしたいのか、どんな人生を送りたいのかを、ご自身でしっかり考えていただきます。
とくに、住宅資金のご相談に来られた方にも、今後の急激な人口減少と高齢化、国の財政問題などに鑑み、老後資金をまず見つめてもらうことにしています。
老後資金はその方の現役時代の収入や消費性向だけでなく、ご家族構成によっても大きく異なります。まずは一般的な例を使って、老後の支出と収入をお話しします。
老後支出は7000万円超!?
生活パターンは人それぞれではありますが、総務省「家計調査報告(家計収支編)2020年平均」によると、平均的な高齢者夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の消費支出と非消費支出(直接税と社会保険料)の合計額は月約25万5000円となっています。
仮に、夫婦ともに65歳とすると、夫の平均余命は20年、妻の平均余命は25年程度です。仮に、夫が先立った後の支出が4分の3になるとすると、65歳以降の支出総額は約7,270万円となります(25万5000円×12カ月×20年+25万5000円×4分の3×12カ月×5年)。
この支出を支えるのは、退職金(退職一時金と退職年金)と公的年金です。
厚生労働省の調査(平成30年就労条件総合調査)によると、退職金は夫が大卒で35年超勤務した場合、2,500万円程度(企業年金も含む)です。公的年金は平均で、基礎年金5万4,000円、厚生年金9万2,000円となっています。(厚生労働省の「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)夫が他界した後の厚生遺族年金は夫の厚生年金の4分の3だとすると約6万9,000円となります。
従って、公的年金の総収入は、夫が約3,500万円((5万4,000円+9万2,000万円)×12カ月×夫の平均余命20年)、妻が約2,030万円(5万4,000円×12カ月×妻の平均余命25年+6万9,000円×12カ月×夫が先立った後の妻の平均余命5年)、合計で約5,530万円になります。
退職金と合わせると8,030万円で、老後収入のほうが760万円ほど多いという結果になっています。
退職金に頼らない住宅ローン返済計画
こう見ると、65歳以降に給与収入などがなくても、なんとか暮らしてはいけそうです(退職金が2,500万あれば…の話しですが)。しかし仮に、30歳以上の方が35年ローンを組むと、65歳時点で残債がまだ残っているということになりますので、必然的に退職金の一部を住宅ローンの完済に充てるようになるわけですが、そうするとその後の老後の生活に与える影響は非常に大きいです。
さらに、老後生活には、住宅のリフォームや修繕費用などに加えて、病気や介護などの費用も発生します。また、公的年金の支給が開始される年齢が現在の65歳のままだったとしても、60歳以降の給料は現役時代の7割~半分程度になってしまう企業が多く、その減少分をどうやって補っていくかという課題もあります。
急速な高齢化の進展によって、公的年金の支給開始年齢が70歳、75歳と後ろに延びないとも限りません。老後にゆとりある生活を望むのであれば、現役時代から将来へ向けた一定の準備が必要になります。
つまり30代から40代の間で、いかに家計をやりくりしながら住宅資金と教育資金の割り振りを考えつつ、将来を見据えて準備できるかということがポイントになります。
住宅資金はローン返済だけではない
教育費は、お子様の人数によっても異なりますし、私立大なのか公立大なのか、文系か理系か、仕送りをするかしないか、によっても変わってきます。文部科学省の平成30年度「子供の学習費調査」などによると、幼稚園から大学まですべて国公立だった場合でも総額で541万円程度、すべて私立ならば1,830万円程度かかります。
こうしたことを踏まえながら、住宅にかかる支出を退職までに(できれば給料が下がる前の60歳までに)にどの程度支払うことができるのかを考えます。
住宅資金の中には、もちろん住宅ローンの返済だけではなく、毎年支払う固定資産税やマンションであれば管理費や修繕積立金、駐車場使用料なども含まれます。
一戸建てであれば修繕積立金は不要とお考えの方もいるかもしれませんが、一戸建てであっても建物はどんどん劣化していきますので、10年間で新築時の建物価格の1割程度は修繕費をためておく必要があります。
この準備があれば、10年に1回程度必要とされる屋根や外壁の修繕が実施でき、結果として建物の価値を維持しながら長い目でみれば修繕費が最も低く抑えられます。
こうした維持管理をしっかりできている建物については、将来リバースモーゲージが利用しやすくなったり、不動産の価値を金融機関が適正に評価できる仕組みをつくろうという動きもあります。
家の予算を考えることで得られる価値
こうした話を聞かされると、「早く良い住宅ローンを教えて!」と言う方や「お得な制度やテクニックが聞きたい」方たちには、なんだか面倒くさいと言われたり、そこまで考えなくても…と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、マイホームの購入予算を考えるというのは、お金のことだけを考えることではありません。マイホーム取得がゴールではなく、その住まいを手に入れた後に自分や家族がどんな暮らしをしたいのか、どんな人生を送りたいのかを、冷静に見つめることができる貴重な機会なんです。
お客様の中には、マイホームの購入を決断する過程で自分の人生の目的を明確にして、会社を退職後に夢だったカフェを開業しようと夫婦で準備を始めた方もいます。また、地方にある空き家になった実家で民泊を始めようと、今まで疎遠だった地域活動に参加するようになった方もいます。
終わりに
ほとんどの方にとっては最初で最後のマイホーム取得ですから、絶対に失敗したくはないはずです。だからこそ、誰かにせかされて慌てて契約を決めずに、じっくりと自分と家族の将来について考える良い機会だと思います。ですが、実際には営業マンの言うことをうのみにして簡単に決めてしまう方が非常に多いのが現状です。収入・資産状況・家族構成・働き方など、様々な要素で大きく変わります。マイホームを考えだしたら、土地探しや内覧会に参加するよりも、まずはしっかりとご自身とご家族の将来と向き合い、そのうえで「マネープラン」を“必ず”立てましょう。
土地探し✖ 展示場見学✖ まずは!ライフプランと予算建て〇
もしご自身でだけで判断するのが難しいと感じた場合は、ぜひファイナンシャルプランナー等専門家に相談して、あなたの働き方・収入・マネープランにあったアドバイスを受けてみましょう。
執筆者:ファイナンシャルプランナー 大熊 雅貴
ライフプランのお金の見直しから住宅購入計画、年金・貯蓄の相談など、毎年100組を超えるご相談を受ける。自身の経験から得たノウハウとともに“かしこく生きる”アドバイスをしている、子育て世代のお金の悩み専門のファイナンシャルプランナー。