成年後見の終了について
みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回に引き続き、法定後見制度について、私の実体験をもとに事例をご紹介したいと思います。
今回は、成年後見の終了時の後見人の対応についてです。被後見人が死亡した場合、その時点で、後見人の法定代理権は消滅しますので、後見人であった者は「管理計算業務」と「相続人への相続財産の引渡し業務」を行い、業務を終えることになります。(逆を言えば、当初の後見申立の理由となった件が済んでも、後見業務はご本人が亡くなるまで続くことになります。)
成年後見人の本人死亡後における死後事務について
もう少し具体的に見てみましょう。被後見人死亡後の事務は次の流れになります。
1.財産目録と収支計算書を相続人に交付する。
2.法務局に後見終了登記を申請する。
3.家庭裁判所に終了報告を行う。
4.相続人に財産の引継ぎを行う。
5.引継ぎ書を家庭裁判所に提出して成年後見業務を完了する。
つまり、ご遺体の引き取りや葬儀は成後見人の権限でも義務でもありませんし、その後の相続の各種手続きも(いち司法書士として受託するのは別として)後見人の業務ではありません。これらは、引き継いだ相続人が行うことになります。
ただ、本人の親族が誰も対応しない場合、実際には成年後見人であった者が、病院や施設の求めにより善意で対応することがあります。その場合は、民法上の「事務管理」や「応急処分義務」と解して現場対応をしています。
成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律
このように、民法上の「事務管理」や「応急処分義務」と解して現場対応することになりますが、その立場は非常に不安定なものでした。
そこで円滑化法(平成28年10月13日施行)により民法873条の2が新設され、成年後見人が死後事務を行う権限が追加されました。
民法873条の2 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
(出典:法務省ホームページ http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00196.html#09)
相続財産管理人の選任
さて、相続人に財産を引き継ぐと述べましたが、相続人がいない場合はどうなるのでしょう?果たして、残された財産はどこに行くのでしょうか?
答えは、最終的には「国が没収する」です。流れを見ていきましょう。
法定相続人が誰もいないときは、「相続人不存在」の状態になります。これは相続人全員が相続放棄をしたり、相続人が相続欠格・推定相続人の排除により相続資格を失っている場合も含みます。
法定相続人になりうる者が誰もいないときに、家庭裁判所から選任されるのが「相続財産管理人」です。これは、その名の通り、故人の相続財産を管理する者のことで、通常は弁護士が選任されます。この相続財産管理人が相続人や相続債権者を捜索し、また、故人が生前深く関わりのあった「特別縁故者」がいないか確認しますが、一定期間それらの者が現れなければ、遺産は最終的に国庫に帰属することになるのです。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法で定められている遺産を相続すべきと考えられている人のことです。具体的には、故人(被相続人)の配偶者・子ども・孫・親・祖父母・兄弟姉妹(死亡している場合は甥・姪)を指します。
よって、後見人は、被後見人に相続人がいない場合、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行い、選任された相続財産管理人に財産の引継ぎ、その業務を終えることになるのです。
事例
それでは、実際に私が後見人をさせていただていた方のケースをご紹介します。(分かりやすいように実際と若干内容を変更しています。)
◎ご本人(被後見人)女性(60代)
入院先の病院への支払いが滞っている等、主に財産管理のため後見人の選任が必要とのことで、管轄の区役所が対応していた。その後、推薦を受け私が後見人に選任された。ご本人は、その時点ですでに末期がんで余命がわずかと宣告されていた。遠方にお住いの従兄弟が唯一の身内。ただ、連絡をとる間柄になかったので、後見開始の申立人にはなってもらったが、それ以外のサポートはできないとのこと。親族のお墓は従兄弟のいる地方にあるため、ご逝去の際は、遺骨の引き取り、納骨はしていただけるとの話はあった。
死後事務
わずかな資料を頼りに本人の財産関係を整理している矢先、本人危篤の連絡がありました。もしものために、従兄弟と連絡を取り、私が間に立つ形で直葬の手配を行いました。いつ呼ばれるか、気が気でない日々が続きましたが、深夜に病院からの電話。ついにそのときがきたかと覚悟を決めました。
すぐに病院に駆けつけたものの、到着後、ほどなく静かに息を引き取られました。その後、手配していた葬儀社へ連絡、ご遺体の引き取りをお願いし、病院への支払いを済ませ、その日は終えました。幸い、その後の火葬からお骨の引き取りといったことは、従兄弟がこちらまで来てくれて対応してもらえました。
後見終了
従兄弟は法定相続人ではありません。今回は相続人がいないケースに該当しますので、私が後見人という利害関係者として、相続財産管理人の選任申立を行い、数か月後、弁護士が選任されました。その管理人に、通帳等の財産を引渡し、家庭裁判所に最終の報告をして、短い間でしたが、私の後見業務は終了となりました。その後、残った財産は国庫に帰属したと思われますが、その前に永代供養についてどうするかといったことが管理人と従兄弟との間で協議された模様です。
まとめ
身内のいない方については、遺言書がなければ遺された周りの人たちは遺産をどうしたらよいのかわかりません。生涯未婚の人や独居老人が増えている昨今、遺言書を記して死後の財産の行き先をあらかじめ決めておくことはますます重要になっています。
遺言書がなければ、遺産は最終的に国のものになってしまいます。たとえ何年お世話になっていても、身内でなければ介護や身の回りのお世話をしてくれた人に相続権はありません。きちんと遺言書を書いておくことで、お世話になった人に感謝の気持ちとして財産を渡すことができるのです。
今回、成年後見の終了時の対応をご紹介しましたが、遺言のように生前に対策を取っておくことが有効となるのは、何も成年後見に関わる方に限りません。今後、みなさんがお元気なうちに対策を取るきっかけとなるような記事も書いていければと思っています。
ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。
執筆者:司法書士 高橋 伸光
司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。