提携専門家相談事例

知っていますか?「おしどり贈与」 ~生前贈与と司法書士のかかわり~

生前贈与について

みなさん、こんにちは。司法書士事務所あしたば総合法務の代表司法書士の高橋伸光です。
前回まで遺言や任意後見といった、生前に有効な対策についてご紹介してきました。引き続き今回も対策のひとつである生前贈与について事例を交えてご紹介します。

生前贈与とは、その名のとおり、相続によるのではなく、生存している間に、個人から別の個人(例えば、夫から妻、親から子等)へ財産を無償で渡すことです。贈与し財産を分散させることで、相続税の課税対象となる財産を減らすことができることから、主に相続税の節税対策を目的として行われます。

今回はその中でも、特に司法書士が関わることの多い、「おしどり贈与」について見ていきます。

おしどり贈与について

おしどり贈与とは

おしどり贈与とは、「贈与税の配偶者控除」という特例の通称です。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間の贈与に使える特例なので「おしどり贈与」と言われています。この特例では、居住用不動産もしくはそれを取得するための金銭の贈与が行われた場合に、最高2,000万円まで控除できます。贈与税の基礎控除110万円とは別に使うことができますから、贈与財産計2,110万円を差し引いて税額を計算することになります。

特例の適用要件は以下のとおりです。当てはまる方も多いのではないでしょうか?

【適用要件】
① 夫婦の婚姻関係が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
② 贈与された財産が居住用不動産(生活の拠点としての不動産)、またはその取得資金であること
③ 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその居住用不動産に住んでおり、その後も住み続ける見込みがあること

司法書士のかかわり

次に、贈与の手続きの流れと司法書士の関わりについて見ていきます。
おしどり贈与を利用する場合の手続きの流れは、大まかに

①贈与契約の締結
②不動産の名義変更
③贈与税の申告

となります。

不動産の名義変更とその前提の契約書の作成は、司法書士の業務範囲です。おしどり贈与は不動産に関するものであることから、不動産登記の専門家である司法書士と関係が深い手続きと言えます。(贈与税の申告は税理士の業務範囲になります。)

事例

「おしどり贈与」を利用することにされた方のケースです。(実際とは内容を少し変更しています。)

<概要>

ご依頼者(夫・70代)
家族構成 妻(70代)、長男(40代)、長女(40代)

依頼者は、自身の亡くなった後のことを考えて、遺言公正証書を作成しました。これでひと安心と思っていたところ、おしどり贈与の要件を満たすので、利用すれば相続財産が減り、相続税がかからなくなると税理士からアドバイスを受け、どのように進めれば良いかご相談にいらっしゃいました。

遺言にも不動産についての記載があるが、生前贈与とはどういった関係になるのか?また、名義変更手続きには権利証が必要だと思うが、紛失してしまったので再発行してもらうことはできるのか?という点を気にされていました。

<遺言の内容>

保有財産は自宅と、預貯金。遺言は、自宅は妻にすべて、預貯金は妻、長男、長女に3分の1ずつ相続させるという内容。

<対応>

手続きの内容をご説明のうえ、贈与契約の締結、それに基づいた不動産の名義変更登記申請を実施。(おしどり贈与制度を利用することで、税金がかからない範囲での贈与となり、納税はなし、税務は最初にアドバイスした税理士が担当)

【遺言と生前の財産処分の関係性】
遺言者による遺言後の生前処分として民法1023条2項に規定があります。遺言者が、遺言後に遺言の内容と異なる生前処分や法律行為を行った場合は、抵触する部分について遺言を撤回したものとみなされます。今回は元々、不動産を妻に相続させる内容の遺言を残していましたが、生前贈与をしたことで、遺言は不動産についてのみ撤回したことになり、残りの預貯金については遺言が引き続き有効です。生前贈与をすると、せっかくの遺言がすべて無効になる、とうわけではないのでご安心ください。

【資格者代理人による本人確認制度】
登記済権利証や登記識別情報通知(法改正により従前の権利証の代わりとなるもの)は再発行することができません。再発行ができる仕組みを作ると悪用される危険があるからです。

では、権利証等をなくしてしまうと名義変更の手続きはできないのでしょうか。その場合に用意されている方法のひとつが、司法書士が登記官の代理として本人確認を行うものです。申請人となる登記名義人と面談し、本人確認のできる書類(運転免許証など)の提示を受けたり、登記名義人であることを確認できる事項を聴取したりしながら本人確認を行います。そのうえで、その内容を「本人確認情報」という書類にして、登記申請時に法務局に提供するというものです。これにより権利証等がなくても贈与による名義変更が可能になります。

ただ、依頼する場合は、司法書士への手数料が発生する点に注意が必要です。司法書士が、権利証等がない方の身元を保証するような形になるため決して安くない金額になります。権利証等は大事に保管するようにしましょう!

まとめ

ここまで「おしどり贈与」について見てきました。一見使った方がお得に見えるおしどり贈与ですが、使うべきかどうかの判断にはおしどり贈与に関する深い理解と細かい税金の計算が必要になります。おしどり贈与を使わなくても「配偶者の税額軽減」で相続税を減らせる可能性もあります。やみくもに使ってしまうとコストや税金面で損をしてしまうケースがあることには注意が必要です。

おしどり贈与をする前には一度専門家に相談してみることをお勧めします。不動産に関するものであることから、司法書士に馴染みの深い手続きであることはご理解いただけたかと思います。税理士に限らず、司法書士にまずご相談いただくのも良いでしょう。

ご相談がございましたら、ぜひ当ホームページのオンラインサービスをご利用ください。

執筆者:司法書士 高橋 伸光

司法書士事務所あしたば総合法務 代表司法書士。登記手続きをはじめとする、従来の手続代行という枠に捉われず、生前対策や遺産承継業務、また、後見人や財産管理人といった分野に力を入れ、お客様に寄り添う、身近な法律家として活躍している。

高橋司法書士にオンライン相談を依頼する